演出家 田渕大輔が語る

ドラマ・ヒストリ 『アウグストゥス-尊厳ある者-』の見どころ

演出家デビューから今年で10年目を迎え、作品ごとに新たな可能性を感じさせる田渕大輔が、今作では、ロマン溢れる古代ローマの世界へと誘う。柚香光演じる皇帝アウグストゥス帝の若き日の物語が、どのように描かれるのか、話を聞いた。   

柚香光の輝きで息づく、偉大な皇帝の若き日

ローマ史上初の皇帝アウグストゥス帝を描こうと思われたきっかけは?

古代ローマ内乱の時代を、武力でなく知性で治めたアウグストゥス帝の若き頃を描きたいと思いました。乱世に覇を唱えるようないわゆるカリスマ性のあるキャラクターでなくとも、柚香光というスターが持つオーラが、アウグストゥス帝を宝塚歌劇の主人公として十分に輝かせるはずだと考えたのです。   

皇帝になる前の、青年オクタヴィウスの物語ということですが。

まず、英雄カエサルの治世から、アントニウスとブルートゥスの覇権争いへと至る、演劇的に面白い時代が背景にあります。彼らが“動”の勢力であるのに対して、オクタヴィウスは“静”の人間のイメージです。彼が頭脳や理性によって平和を模索していく、その過程に焦点を当てたいと思い、皇帝となる以前の物語にしました。   

演じる柚香光とは、『Victorian Jazz(ヴィクトリアン ジャズ)』(2012年)以来になります。

柚香の最大の魅力のひとつは芝居への姿勢だと思います。トップスターとしてのオーラが備わっているだけでなく、『Victorian Jazz』の頃から変わらず、演じる役や作品の本質をストイックに突き詰めていくなかで、自分の利点を生かすのはもちろんのこと、客観的な視点を持って自分の弱点も理解したうえで、それをプラスに変えられる人です。
常に心と身体を動かし続けて自分を魅せるという柚香ならではのやり方を、ポスター撮影の時から発揮して、とても素敵なオクタヴィウスを創り上げてくれています。   

今回は苦悩する役どころですね。

組の中心に立つトップスターとして感じていることには、おそらくオクタヴィウスの苦悩と重なる部分もあるのではないでしょうか。いつも脚本を書く際は、演者一人ひとりが最も魅力的に見えるような“当て書き”であることを意識しているのですが、オクタヴィウスにも柚香の芝居へのスタンスが影響していますので、彼女がオクタヴィウスとして、舞台上で自由に生きてくれることを期待しています。   

オクタヴィウスを取り巻く歴史上の人物たち、その華麗な競演

トップ娘役・華優希演じるポンペイアは、どのような役でしょうか?

柚香と華は“芝居の温度”が似ていると感じています。そこで、憎しみから始まった二人が、心の中に同じ輝きを見つけることにより、いわばソウルメイトのような絆で結ばれていく物語にしたいと考え、ポンペイア役を創作しました。   

この公演で退団する華の魅力とは?

彼女も柚香と同じように感覚が鋭く、感性で演技を組み立てるタイプですね。台本を読み込んで役を創り上げるわけですが、その過程で自分の心に感じたことを繊細に表現する力があり、大変魅力的に感じます。   

マルクス・アントニウスを演じる瀬戸かずやも、この役で退団します。

宝塚の男役を心から愛し、より魅力的でありたいとアプローチを続けてきた瀬戸に、最後に男臭くて色気のある、大人の男性を演じてもらいます。瀬戸にぜひ言わせたいセリフも散りばめましたので(笑)、ファンの方に楽しんでいただきたいです。   

オクタヴィウスの大伯父、ガイウス・ユリウス・カエサル役には、専科の夏美ようが扮します。

夏美さんの緻密に練り上げられた芝居は、物語に説得力を持たせてくれますよね。加えて、独特の華やかさは、内乱の時代に人々に夢を見せたカエサルのカリスマ性と結び付くところがありますから、人を魅了してやまないカエサルを演じてくださると思います。   

同じく専科の男役・凪七瑠海が、エジプト女王クレオパトラ7世を演じます。

威厳を保ち、虚勢を張って、美しさと知性で男性を虜にしてきた女王ですが、今回はアントニウスとの恋愛に焦点を当てています。女性の気持ちの表現に、男役である凪七の力強さが程良く混ざり合い、稽古場から大変惹き付けられています。   

その他の出演者の活躍も楽しみです。

水美舞斗や永久輝せあなど、彩りを添えるスターがひしめくなかで、それぞれが個性を発揮し合っているところに、花組の魅力があると思います。これからの花組を盛り立てていくメンバーが、柚香を頂点とするピラミッドの裾野をどれだけ広げて、柚香を支えてくれるのか、とても楽しみです。   

最後に、お客様へのメッセージを。

出演人数を減らしての上演が続くなか、劇場にお越しくださる皆様にもさまざまなご協力をいただき、感謝申し上げます。このような状況ではありますが、私たちにできる最高のパフォーマンスをお届けできるよう、出演者一同、懸命に稽古に励んでおります。どうぞご期待ください!   

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【プロフィール】

田渕 大輔

大阪府出身。2006年宝塚歌劇団入団。2012年、ロンドンを舞台に奇術師の青年が巻き込まれる騒動を“ジャズ”に乗せて描いた『Victorian Jazz』(花組)で演出家デビュー。2014年、フランス王アンリ4世の葛藤と愛をドラマティックに描いた『SANCTUARY』(宙組)を発表。2015年の『相続人の肖像』(宙組)では、貴族の青年が真実の愛を知り成長する姿を瑞々しく綴った。2016年、不朽の名作『ローマの休日』(雪組)を宝塚歌劇らしい演出で舞台化し、好評を得た。2017年には浅田次郎原作の『王妃の館 -Château de la Reine-』(宙組)で宝塚大劇場デビュー。太陽王ルイ14世と個性豊かな登場人物たちが織りなす人間模様を生き生きと描き出し、コミカルで温かみのある作品に仕上げ、好評を博した。2018年の『異人たちのルネサンス』-ダ・ヴィンチが描いた記憶-(宙組)では、大劇場公演で初のオリジナル作品に挑み、謎に包まれた天才の人物像をイマジネーション豊かに創り上げた。