『FULL SWING!』の魅力

演出家 三木章雄が語る ジャズ・オマージュ『FULL SWING!』の見どころ

エンターテインメント、とりわけショーへの造詣が深く、宝塚歌劇の歴史の懸け橋のような存在として活躍を続ける演出家・三木章雄。新生月組への愛情と期待、そして、50余年のキャリアを重ねた今、迸る想いを語った。

月城かなととジャズの共通点はホット&クールな魅力!

どのようなコンセプトでつくられたショーか、お聞かせください。

新トップスター・月城かなとの大劇場お披露目となりますので、まずはなにより、彼女の持ち味を最大限にお見せしたいと考えています。そして、今作のテーマであるジャズのビート感、スウィング感を大切に、各場面を通して、熱い気持ちや情熱を訴えかけていきたいです。
以前から温めていたテーマではありますが、ジャズの持つ二律背反、いい意味でのギャップに通じる、魅力的なトップスター・月城かなとが誕生し、実現させてくれました。トップお披露目であるとともに、お正月の公演でもありますので、その勢いに乗せて、新しい気持ちでこの一年を前進していけるような、ハッピーな作品にしたいです。

作品の構成を教えてください。

プロローグでは「ビギン・ザ・ビギン」という、大変有名な曲を使います。元々はラテン系のリズムの曲ですが、クラリネット奏者アーティ・ショウのジャズバンドによるバージョンです。いわゆるスウィングジャズの4ビートに乗せて踊る、クールでダンディな男役の典型的な魅力をお届けできたら嬉しいです。
また、中詰めは往年の大スター、フランク・シナトラをテーマに、彼の様々な名曲にオマージュを捧げる形で、月組のみんなにシナトラになりきって歌ってもらいます。最後は月城が「マイ・ウェイ」を歌い、そこに全員が加わっていきます。それぞれの“マイ・ウェイ”、これまでの、そしてこれからの道のりに想いを馳せるような中詰めにしたいですね。

中詰め後はどのような場面になりますか?

モノクロのギャング映画を彷彿とさせるパリの場面では、「Rendez-vous(ランデヴー)」というオリジナルの曲で、“綱渡りのような人生を生きてきたけど、お前の手を握ってこのままタイトロープの伸びる先の星空まで一緒に行こう”と、月城がロマンチックに歌います。このシーンでは、暗さに裏打ちされたロマンがあり、プロローグの月城とはまた違った屈折した魅力が出ると考えていますので、お楽しみに。
そしてフィナーレは、男役の黒燕尾の群舞です。黒燕尾というとクラシカルなイメージですが、今回はアップテンポのラテン・ジャズで、どこまでも激しく踊ります。ここでは“ホット”な月城を見ていただく予定です。

様々なジャズのジャンルとともに、月城かなとの多面性が楽しめるショーですね。

月城は貴公子的な役が似合う美貌に恵まれ、クラシカルな宝塚の男役像を体現できる演技力に定評がありますが、一見クールにみえて内面にたぎるものを持っていますので、ショーでもさらに評価を高められるスターだと思っています。歌う、踊る、走り回る、ジャンプする、叫ぶ!…など(笑)、あらゆる表現に、観客に訴える力があり、ショー作家である私としては、彼女はショーで勝負できる貴重なスターの一人であり、一層極められる人だと確信しています。
この作品はショースターとしての彼女の魅力が最大限に発揮されることを目指していますから、作品の目玉はずばり「月城かなと」!といえるのではないでしょうか。

相手役の海乃美月も、トップ娘役のお披露目となります。

個として成立している人間が、それぞれ自分の足で立って生き、歩いている時、偶然出会った誰かと手を取り合う…そんな恋の形もあるように、彼女には、娘役として、男役にただ寄り添うだけでなく、自立し、対等に向き合えるような存在でいてもらえたらと思っています。古典的な関係だけではなく、その男役と交錯する瞬間に自らも何かを見つけられるような在り方が似合いますね。台詞のないショーでそれを表現するのは難しいことかもしれませんが、実力のある海乃には、大いに期待しています。

トップコンビを支える頼もしい存在、鳳月杏について。

鳳月は不慣れな領域にも臆さず飛び込んでいける勇気のある人です。また、フワッとした穏やかな印象でいながら、根本的なところでは非常に確実な選択をしてくれます。やると決めたら絶対にやる、という割り切りの良さがあるのに、まったくギスギスさせないところも彼女の美点ですね。鳳月の醸し出す雰囲気が場を和ませてくれ、月城や下級生たちの大きな救いになっていると実感しています。声も、動きも、スタイルも良く、ショーにはもってこいの人であることは言うまでもないのですが、それ以上に、自分の決めたことを黙々とやろうとする彼女の姿に好感をもっています。

暁千星、風間柚乃など若手スターにも期待が大きいですね。

暁は、私が担当した初舞台公演『クライマックス』(2012年宙組)の当時から、ずば抜けて身体的能力が高かった印象ですね。内面の情熱をなかなか見せないのですが、パフォーマーとしての素晴らしさや強みも知っていますので、とても信頼しています。今後、まだまだ誰も知らない“暁千星”を披露してくれるのではないでしょうか。
また、風間をはじめ若手スターたちも非常に勢いがあり、彼女らの存在が月組全体を活性化させている要因の一つだと感じます。

新たなスタートを切った月組に期待することは?

トップが交代し組の体制が変わる時は、みんながそれぞれ変化できるチャンスでもあります。未来に向かって結束し、目を輝かせている子がたくさんいますので、私はお披露目公演が大好きです。
全員の心が燃えていて、組のためのみならず自身の成長のために頑張っていることが伝わってきます。ただ、いま一度自分を見つめ直し、もっと己に厳しくなってもらうために、一応「先生」と呼ばれる立場ですから(笑)厳しい言葉もかけつつ、全員がやり切った気持ちで初日を迎えられるように環境を整え、一番の味方として見守りながら稽古しています。

月組100年の歴史に、今加わる月城かなと

今作で月組は誕生から101年目を迎えますね。

月城は多くを語るタイプではありませんが、信じてきた道をしっかり歩もうという姿勢がより強く伝わってきます。舞台に懸ける気持ちが鮮明に見えるので、私は彼女に「頑張れ」という言葉をかけたことは一度もありません。
私自身、これまでたくさんの偉大な先輩方から学んできましたが、直接の師匠であった鴨川清作先生がもし今の月城を見たとしたら、きっと「もっとやれる!」と叱咤激励したかもしれません。私に同じことはできないのですが(笑)、私の身体の中にもそのスピリットは宿っているはずですので、必ずさらなる魅力を引き出せるようにしたいと思っています。
先般、私が携わった外部の公演で、花組・月組誕生100周年記念「Greatest Moment」(梅田芸術劇場・東京国際フォーラム)に出演するOGたちに、「皆さんは歴史の鎖を繋ぐ“輪っか”なのですよ」と話しました。すると、そこにいるみんなが「一つの輪としての責任を果たせて良かったです」と言ってくれました。一つひとつの輪が繋がってきた結果、100年がある。今、月城はその輪に繋がったところで、その重責を負っていることをひしひしと感じますので、携わる私自身も身の引き締まる想いと覚悟をもって今作に臨んでいます。

歴史の中ではファンの存在も大きいですね。

ファンの皆さまは、応援する組や宝塚歌劇団を家族のように想ってくださっていると思います。ですから、その存在を我々が勝手に変質させてしまうわけにはいきません。社会の合理化の波は避けることはできませんが、絶対に捨ててはいけないものを守り継ぐためには、互いに何を求めているのかを理解しようと語りかけること、コミュニケーションを怠らないことが大切だと思っております。私たちがまず家族でなくてはいけないですからね。

最後に、お客様へメッセージをお願いします。

作品は、出演者、演出家、そしてスタッフがみんなで頑張り、イマジネーションを合わせ一つの理想に向かってつくっていくものですが、その成果は、お客様に披露してみてようやくわかります。つまり、観客が参加していただくことで初めて作品が完成するのです。ですから、時間とお金を使って観に来てくださるお客様の心は“愛”であるとしか言いようがありません。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
今お客様がご覧になりたい月組、そして月城かなととは何かを追求し、皆さまに喜んでいただける作品になるよう邁進しております。「こんな魅力までも!」と、いい意味で“裏切り”を感じていただけるように全力を尽くしてまいりますので、どうぞご期待ください。

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【プロフィール】

三木 章雄

東京都出身。1971年4月、宝塚歌劇団入団。演出助手としての研鑽を経て、1980年に宝塚大劇場でのショー作品『ファンシー・ゲーム』(星組)で演出家デビュー。以降、宝塚歌劇の伝統を踏まえつつ出演者の個性を存分に引き出す作品を次々に生み出し、1994年『ミリオン・ドリームズ』をロンドン公演で上演。世界を舞台に挑んだショーはミュージカルの本場でも絶賛された。またブロードウェイより振付家を招聘しスタイリッシュなダンス場面を取り入れた『メガ・ヴィジョン』-はてしなき幻想-(1995年花組)、スウィングジャズのリズムに乗せて黒燕尾による群舞の迫力を見せつけた『ジャズマニア』(2000年月組)など、トップスターを筆頭に男役の魅力を最大限に引き出す工夫、観客を飽きさせない本物志向が話題となる。その力量は1998年宝塚歌劇初の香港公演『This is TAKARAZUKA!』(宙組)、1999年北京・上海公演『ブラボー!タカラヅカ』(月組)など海外公演でも大いに発揮され、成功に導いた。2001年6月、宝塚歌劇団理事に就任。2003年には宝塚歌劇団出身者による梅田コマ劇場(現梅田芸術劇場)公演「桜吹雪狸御殿」を共同演出し、好評を得て以降の再演も手がけた。2004年には宝塚歌劇90周年の幕明けを飾る『アプローズ・タカラヅカ!』-ゴールデン90(ナインティ)-(花組)、棹尾を飾る『タカラヅカ・ドリーム・キングダム』(雪組)を後輩演出家の藤井大介、齋藤吉正と共同演出し、オーソドックスなレビューシーンを交えた感性豊かな娯楽作に仕上げた。その後もバラエティ豊かなダンスをバランス良く配したショー作品を数多く生み出し、多くの観客に受け入れられている。その一方で、『回転木馬』(1984年星組)、『サウンド・オブ・ミュージック』(1988年月組)、『ME AND MY GIRL』(1995年月組、2008年月組、2009年花組、2013年月組、2016年花組)、『コパカバーナ』(2006年星組)など、海外ミュージカルやオペレッタの宝塚版の演出も数多く手掛け、いずれも宝塚歌劇ならではの華麗さと本場の醍醐味を共に味わえる舞台に仕上げて好評を得た。また、2013年から各組で公演した『New Wave!』シリーズや、『Dream On!』(2019年花組)など、若手メンバー中心のショー作品で、次代のショースター育成にも尽力している。2021年には花組・月組のレジェンドたちが一堂に会した記念公演「Greatest Moment」(梅田芸術劇場・東京国際フォーラム)を担当、演出家人生50年の経験を活かし、懐かしの場面を鮮やかに甦らせた。7年ぶりの大劇場ショー作品となる今作で、『ファンシー・ガイ!』(2015年雪組)に引き続きトップスターお披露目公演を手掛ける。